コロナ禍に先進的な働き方として導入が進んだ「テレワーク」ですが、最近は「オフィス回帰」の流れもあり、テレワーク制度の見直しを図っている会社も少なくありません。しかし、その過程で従業員間の対立や、さらなる問題に発展するケースも……。本稿では、テレワーク廃止を巡って会社が二分してしまったAハウジング社の事例を社会保険労務士の上岡ひとみ氏が紹介。会社はどう対応すればいいのでしょうか。
*本記事に登場する固有名詞はすべて「仮名」です
「テレワーク廃止」で会社が真っ二つに…
「なぜ今さらオフィス勤務に戻す必要があるんですか?私は在宅の方が生産性が上がっています!」
総務部長の中村(45歳)は、怒りに震える営業企画課の佐藤(29歳)からのメールを見つめていた。新型コロナ感染拡大時にAハウジング社は全社的にテレワークを導入してきたが、近年のオフィス回帰の流れをうけ、経営陣は全従業員のオフィス勤務復帰を決定したところだった。
「テレワーク導入時は緊急措置だと全社に周知したはずだが……」
中村は頭を抱えた。
テレワーク廃止の発表から1週間、会社は二つの陣営に分かれつつあった。一方は「テレワーク継続派」で、主に営業企画部や広報部など、リモートでも業務遂行が可能な部署の社員たち。もう一方は「オフィス勤務推進派」で、主に現場作業が必要な施工管理部や接客が主の販売部の社員たちだった。
「佐藤、ちょっといいか」
翌日、営業企画課の課長・高橋(35歳)は佐藤を会議室に呼び出した。
「会社の方針だから従ってもらうしかない。君だけ特別扱いはできないよ」
「でも課長、私はテレワークになってから業績が30%アップしています。通勤時間がなくなった分、早朝から顧客対応ができるんです」
「確かに佐藤の成績は良い。だが、チーム全体で見れば連携が取れなくなっている。オンライン会議では言いづらい意見も多いし、若手の育成も難しくなっている」
「それは旧態依然とした管理方法に問題があるんじゃないですか?世界はデジタル化に向かっているのに、Aハウジングだけ時代に逆行していると思います」
高橋の表情が険しくなった。
「佐藤、君は少し傲慢になっていないか?個人の成績だけが全てじゃない。会社組織として機能させることも大事だ」
「旧態依然とした考え方で若手を潰すんですね。これじゃ優秀な人材は辞めていくばかりです!」
佐藤は会議室を出て行った。
匿名でまさかの訴えが…
翌朝、社内掲示板に匿名の投稿があった。
「テレワーク廃止に反対する社員に対し、一部管理職がパワハラ行為。時代遅れの考え方を押し付け、精神的苦痛を与えている」
社内は騒然となった。経営陣と総務部は緊急対策会議を開くことになった。
「これは明らかに佐藤の投稿だろう」
「しかし、このままでは社内の分断が深まる一方だ」
「テレワーク廃止は法的に問題ないのか?確認する必要がある」
会議の結果、高橋課長は佐藤を呼び出し、厳重注意することになった。
「匿名投稿が君だと断定はできないが、社内の秩序を乱す行為は許されない」
「私じゃありません。でもこれは内部通報として扱われるべきではないですか?パワハラを訴えているのですから」
「佐藤、君は自分が特別だと思っていないか?チームワークはビジネスの基本だ」
「チームワークと従順さを混同しないでください。問題提起は組織をより良くするために必要です」
話し合いは平行線をたどり、高橋課長は最終的に「テレワーク廃止に従わない場合は、懲戒処分も検討する」と言い放った。
この強硬姿勢に、佐藤は弁護士相談も視野に入れる旨を告げた。状況を重く見た社長(51歳)は、中村総務部長に「専門家の意見を聞くように」と指示した。
* * *
日本の判例では、使用者は業務上の必要に応じて労働者の勤務場所を決定する権限を持つとされています。最高裁の判決(東亜ペイント事件)でも、業務上の必要性が認められ、かつ不当な動機や労働者に過度の不利益を与えない限り、勤務場所の変更は有効とされました。
テレワークの廃止についても基本的には同様の考え方が適用されます。しかし、実際の運用に際しては慎重な検討が必要です。
くわしくは後編記事〈突然の「テレワーク廃止」にどうしても従わない社員は解雇できるのか?企業も従業員も納得の「落としどころ」〉でお伝えします。
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