昨年7月、奈良県安堵町で発生した住宅火災は、江戸時代初期から続く貴重な文化財を焼損させる大惨事となった。消防車19台が出動する大規模な消火活動にもかかわらず、重要文化財「中家住宅」の茅葺き屋根約60平方メートルが焼け落ちた。幸いにも人的被害はなかったものの、350年以上にわたって受け継がれてきた歴史的建造物に深刻なダメージを与えた。
400年の時を超えた"日本最古の梅干し"も灰に
火災から3ヶ月後、私たち取材班は中家住宅を訪れた。21代目当主の中八代さん(62)は、「数年前に張り替えたばかりの大和棟と呼ばれる美しい茅葺き屋根が跡形もなく燃え落ちてしまった」と無念の表情で語る。
建物内部では消火活動による二次被害も深刻だった。12時間以上続いた放水で室内は水浸しとなり、白壁には茶色い染みが広がり、梁には大量のカビが発生。「翌朝来たら全て水没していて...畳や家財道具すべてダメになってしまった」と中さん。
特に痛ましいのは先祖代々受け継いできた貴重な品々の損失だ。「日本一古い」と言われる400年前からの梅干しは焼け落ちた瓦で壊れ、"吉田兼好ゆかり"とされる屏風もひどく損傷した。「最初は涙も出なかったけど、後から怒りと悔しさがあふれてきた」と中さんは胸中を明かす。
"20回以上の警告"無視された危険なたき火
警察によると、火災原因は近隣住民による枯れ草焼却だという。実はこの場所でのたき火行為には前歴があった。過去2年間で20回以上繰り返されていたというのだ。
「毎回『やめてほしい』と注意していたのに...」。中さんだけでなく町職員も直接制止していたことが判明している。「必ずやめるように伝えました」(安堵町・榧木氏)。それでも住民らは危険行為を止めなかった。
[捜査進展]50代男女を書類送検
今年3月6日、警察捜査が進展した。現場付近に住む50代男女2人を重過失失火容疑で書類送検したのだ。「確認せず現場離れた重大過失」(捜査関係者)。しかし容疑者側取材では「注意された覚えない」「確認怠っていない」との主張もあるという。
"5億円修復費"2500万円負担への苦悩
現在夫妻ではクラウドファンディングなどで再建資金調達に奔走している。総額約5億円とも言われる修復費(95%公費負担)だが、「物価高でさらに膨らむ可能性」(夫・寧氏)があるだけに不安材料が多い。「何度警告しても聞かなかった結果です...本当に悔しい」(八代氏)
"4年後の完成予定とはいえ
失われた歴史的価値
返らない思い出がある..."
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