父親と母親から相続した不動産売却の相談に来られた志村さん。4人きょうだいの志村さんたちは7年もかけて2つの不動産の遺産分割協議調停を行ったそうです。その背景にはきょうだい間の生活事情や不動産の土地名義など複雑な事情がありました。いったいどのようにして終結したのでしょう。本記事では、遺産分割協議と相続した家の売却について、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
遺産分割協議がまとまらず、調停へ…
志村さん(74歳・男性)から「父親の相続と母親の相続の調停が終わり、審判が下りたので不動産の売却をしたい」と連絡を頂きました。父親が亡くなった際、母親と子どもたち4人の遺産分割協議がまとまらず調停になり、それが長引いた結果期間中に母親も亡くなりました。調停自体は母親の死からさらに3年後に、全体で7年掛かって終わったそうです。志村さんは「なんでこんなことになってしまったんでしょう」と疲れ切った表情で顛末を話し始めました。 長女対母親+長男、次男、三男という図式での対立でしたが、長女が自宅を、長男、次男、三男がアパートを相続することで調停がまとまり、3人はそのアパートを売却したいとのことでした。 子ども4人に対して遺された不動産は2つ 父親の財産は2つの不動産と預金でした。不動産は3,000万円の自宅と、母親と共有名義になっているため持ち分2分の1の評価が4,000万円であった3階建て9世帯のマンション。預金額は2,000万円。合計で9,000万円の財産だったといいます。 当時は相続税の基礎控除が5,000万円+相続人1人1,000万円でしたので、志村さんの父親の相続税の基礎控除額は1億円ありました。よって相続税はかからず、申告も不要だと判断されました。税務署に対して必要な手続きはなにもなかったのです。 次に財産の分け方を決めることになりました。法定割合は母親2分の1、子どもたちが8分の1ずつとなります。しかし財産の多くを占める不動産が2つしかなかったことが課題となりました。不動産は分割することができません。遺言書がない場合は、相続人で遺産分割協議をする必要があります。その状況をさらに混乱に陥れたのが長女の主張です。 長女は二世帯住宅を建てて、両親と同居してきた 一番上の姉家族は志村さんの両親と同居してきました。父親名義の家が古くなったときには、姉夫婦もお金を出し、二世帯住宅に建て替えています。そのため自宅の建物の名義は父親が2分の1、義兄が4分の1、姉が4分の1となっています。志村さんと弟2人は仕事の都合や結婚を機に実家を離れていますので、実家を母と姉が相続する分には異論はありません。 賃貸マンションは自宅の敷地にあるため、姉が自宅もマンションも欲しいと主張! 父親のもう一つの不動産は自宅の敷地内にあります。軽量鉄鋼造3階建て1Kが9世帯あり、1世帯5万円の賃料が入り、月額45万円の収入があります。最寄り駅より徒歩10分の立地で父親が亡くなるまで満室で稼働していました。自宅敷地内ということもあり、マンションの家賃は両親の生活費となっていました。 姉は自宅の隣に建つマンションも、高齢になった両親の代わりに家賃の入金確認や共用部分の清掃など管理をしているので、自分が相続すると主張してきました。 それでは姉の独り勝ちとなるため、母親と志村さん兄弟は当然反対しましたが、姉が譲らなかったため致し方なく母親と志村さん兄弟が調停を申し立てたのでした。
調停の途中で自筆証書遺言を残し母親が亡くなった!
しかし調停の最中・3年前に母親が亡くなりました。母親の財産は評価4,000万円のマンションの土地2分の1とマンションの建物1,000万円、預金3,000万円で計8,000万円。相続税の基礎控除は4人で5,400万円ですので、相続税の申告が必要でした。 母親は調停の様子から話し合いでは決着がつかないと分かっていたので、自筆で「自分の財産は長男、次男、三男に等分で相続させる」という遺言書を残していました。家庭裁判所の検認を済ませましたが、当然のように姉が遺留分の請求を起こしたため、父親の調停の話し合いの中に組み入れ解決することになりました。 その間申告の期限が来ましたが、間に合わないため法定割合で未分割とし相続税の申告を済ませています。 担当弁護士はマンションを売却のために空室に 賃貸マンションは父親が亡くなった当時ですでに築35年を経過していました。調停が始まり売却を見据えて、自宅の土地を母屋とマンションに分筆して相続準備を始めましたので、志村さんたちが依頼した担当弁護士は、マンションも解体して更地で売却することを想定し、空きが出ても入居募集をしませんでした。こうして調停の間には全部屋が空室となりました。 相続登記で名義を変更し、マンションのスピード売却へ 志村さんから調停の審判書や母親の自筆証書遺言の検認書の原本を預かり、各人の戸籍謄本や住民票なども合わせて相続登記をしました。調停が終わっても、そのままでは自宅もマンションも亡くなった父親と母親名義のままです。売却するには、相続人の名義に登記する必要があります。 合わせてマンションの売却活動を始めたところ、建て替えを前提とした購入希望の法人から申し込みが入り、1カ月後には売買契約をすることができました。 すでに測量、分筆は終わっているため、測量図、境界確認の同意書などを添付することで、売買の要件は満たします。また建物に関しては、売主が解体して更地の状態での引き渡しが一般的ですが、買主が引き受けてくれることとなり、現状のまま引き渡すことで了解が得られました。売主側の解体費負担が少なくなり、それだけ高く売れたことになります。 結果、審判が下りた3か月後に売買代金の決済ができ、ようやく志村さんたち兄弟は自分の財産を得ることになりました。 志村さん兄弟は調停が想定以上に長引いて心を痛めていましたが、ようやく調停が終わり共有名義で3人の相続登記もでき、売却もスムーズでよかったと言っています。3人で行った契約は長かった相続が終わった実感につながったようです。
未分割での相続税の申告は修正申告をする
母親が亡くなったときに法定割合で提出している相続税の申告は、審判が下りてから4か月以内に修正申告をする必要があります。遺産分割協議書に代わるものが家庭裁判所の調停調書になります。 調停でもほぼ法定割合になったので取得割合はそれほど変わりませんが、長女が自宅を取得することで小規模宅地等の特例が適用できるようになり、相続税は0円となりました。 未分割では小規模宅地等の特例は使えないため、全員が70万円ほど納付をしなければなりませんが、今回は修正申告を行うことで全員に還付されました。 相続を円満に終えるための教訓 子どもが4人いるのに、不動産は2つ。自宅に同居している子どもがいる、2つ目の不動産も自宅の敷地内にある。こうした状況では不動産を分けるのは難しく、分けたくないと思うのは当然かもしれません。 この場合は父親・母親の遺言書は絶対に用意しておくべきでした。 長女が同居しマンションの管理も行っていても、現在は財産を等分に分ける時代。自宅は長女に、マンションは売却して3人に等分にと事前に決めておけば、調停に費用や時間をかけることはなかったでしょう。 ※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。 曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 ◆相続対策専門士とは?◆ 公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。 「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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