道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。 「その人らしさ」を交換するデジタル名刺・プレーリーカードとは?共同代表 坂木茜音さんインタビュー 今回は、デジタル名刺サービス「プレーリーカード」を運営する株式会社スタジオプレーリー共同代表の坂木茜音(さかき あかね)さんが登場。 創業からわずか1年半で急成長を遂げた経緯とは? アート思考を生かしたユニークなビジネス展開、そして未来のコミュニケーションへの挑戦について伺いました。
スマホをかざすだけで広がる「出会いのイノベーション」
──まずは事業内容についてお聞かせください。 スタジオプレーリーでは、「プレーリーカード」というカードをつくって販売しています。 これは、いわゆるデジタル名刺と言われるサービスの1つです。このカードにはICチップが内蔵されていて、挨拶の際にスマホをカードにかざしてもらえば、あらかじめ登録しておいた自分のプロフィールページが表示される仕組みです。
──紙の名刺に対してどのようなメリットがあるのでしょうか? プレーリーカードは名前や連絡先など通常の名刺情報に加え、プロフィールページにSNSリンクや動画、さらには日程調整ツールまで掲載できます。 たとえば私のプロフィールページには、プレーリーカードを紹介する動画や、スタジオプレーリーの最新ニュース、アーティストとしての活動のポートフォリオなどを掲載しています。 またプレーリーカードは、相手がこのサービスを利用していなくても、SNSやメールを介してプロフィールページを送信することも可能です。 ほかにも、「履歴機能」といった、デジタルならではの機能も。 プレーリーカードを使っている人同士で挨拶をした場合、「何月何日に◯◯さんとプロフィールを交換した」という履歴が自動で残るので、たとえば「あのとき日本酒の話でめっちゃ盛り上がったんだけど、名前が出てこない」というときもすぐ検索できたりします(笑)。 紙の名刺にはない「その人らしい」情報を盛り込めるので、初対面の場でも共通点が早く見つかり、より仲良くなれるし、つながれるし、仕事もうまくいく。そして出会いが履歴として残り、検索もできるというところが強みです。 ──利用者が自分で名刺の内容を自由にカスタマイズできるのは魅力的ですね。 実は私たちも、ユーザーさんの使い方から学ぶことがすごく多いんです。 たとえば、プレーリーカードに日程調整ツールのリンクを入れて、その場で商談の日取りを決めるなんて、当初はまったく想定していませんでした。 仕事用と趣味の少年野球チーム用というように、2枚のプレーリーカードを使い分けている方もいます。 また、一般的に名刺は「人が持つもの」という概念がありますが、コーヒーショップや美容室の方が、サービスを紹介するツールとして店舗に置いてくださるケースもあります。 個人での利用に限らずに、「自分たちのサービスが人格を持つとしたら、どんな名刺をつくるだろう?」という感じで想像していただくと、きっとおもしろいプレーリーカードができると思います。
アートの視点でデジタル時代のコミュニケーションに挑む
──プレーリーカードはどのようにして生まれたのでしょう? 起業までの経緯は? 私は「アサヒ荘」というクリエイターが集まるシェアハウスの管理人をしていて、スタジオプレーリーの共同代表である片山大地もシェアメイトです。 2021年の春、住人の一人だったアーティストがヨーロッパに行くことになり、何か贈り物をしようと思いついたことが、プレーリーカード誕生のきっかけになりました。 というのも、そのとき彼は自分の作品をプリントした名刺を100枚くらい印刷しようとしていたんです。本当にいい作品なのに、名刺だから上に名前を書かなきゃいけないのがもったいないなって、私は思いました。 私はクリエイティブディレクターやデザイナーの経験があり、片山はエンジニアリングができるので、2人で「スマホで読み込むと彼のInstagramが開くカード」をつくってプレゼントしたんです。 ついでにアサヒ荘のシェアメイト6人分のカードも一緒につくり、みんなで使っていたのですが、そのうち友達やクリエイター仲間のあいだで評判になり、次第に「私も欲しい!」という依頼がどんどん来るように。これがスタジオプレーリーのスタートです。 ──なるほど、最初は真心からのプレゼントだったわけですね。そこからニーズが見えてきた、と。 そうなんです。最初は友達の友達どころか、全然知らない人からも注文が来ることにびっくりしました。あまりの人気に「これはどういうことなんだろう?」と考えていくうちに、従来の紙の名刺の問題点に思い至りました。 これはコロナ前の情報ですが、日本人は年間で100億枚の名刺を使っている、しかも世界の名刺の7~8割は日本で消費されているというデータがあるそうです。 それに、名刺をつくる・渡す・管理するという流れも、よくよく考えてみると「個人の情報を一旦デジタル化して印刷、交換したら受け取った側がもう一度デジタル化して管理」と、遠回りしているようにも思えます。 しかし一方で、名刺交換という挨拶の文化は160年以上続いていると言われています。「出会いの瞬間に自分が持っているものを交換する」という意味合いもあるので、交流の形として蔑ろにしたくはありません。 なので、名刺交換の良い面と悪い面の両方をカバーできるツールをつくれたら、と思っています。 ──名刺交換という文化の良い面は踏襲しつつ、現状の課題をテクノロジーで解決にしようと思われたのですね。ビジネスとしての手応えも大きかったのでしょうか? はい、手応えは感じています。ですが、そもそも私はいわゆるスタートアップ業界にいた人間ではないので、なんだか不思議な感じもします。 私はもともと大学でアートを学んでいて、どちらかというと利益を出すことより創造的なことを考えていたい人間。でも、プレーリーカードをつくってみたとき、周りの反応からすごく可能性を感じ、「これが広がったら面白いことになる、やってみたい!」と思ったんです。 今になって振り返ると「何かを生み出す、社会に問いを投げかける」という、自分が深く共感しているアートの思想的な部分と、現在の仕事には共通点があると感じます。 これを一人でやっていたら、もしかしたらアートとして作品にしたのかもしれない。でも、経営メンバーの2人がビジネスパーソンとして優れた視点を持っていたおかげで、自分の「こういう社会になったら面白そう」「こういう問いを社会に投げかけてみたい」という思いをビジネスに昇華することができました。 ──スタジオプレーリーという場所と仲間ができたことで、坂木さんのアウトプットがアートからビジネスやプロダクトへと変わったのですね。もともとアートに対するスタンスとしても、ソーシャルな目線が強かったのでしょうか。 そうですね。「対社会へのメッセージ」というところはあって、大学時代は自然とデジタルを組み合わせることで、デジタル化が加速する社会への問いのようなものをテーマに作品を制作していました。 デジタル化というと、スピードアップや効率化のイメージが強いですよね。でも、プレーリーカードはむしろ逆を行こうとしているんです。 プレーリーカードによって、紙の名刺よりも自己紹介が長くなるという世界線をつくれたらな、と思っています。デジタル化への反発とも言えるかもしれませんが、削ぎ落とすことだけではない価値を提供したい。「話が盛り上がりすぎちゃうよ」って言われるくらいが理想です。
最大の競合は「人間の文化」そのもの
──2023年2月の創業から1年半が経ちましたが、難しい局面はありましたか? 一番悩んだのは、クリエイターとしての視点を持ちつつ、さらにビジネスとしての視点も持たなければならない、そのバランスですね。ユーザーさんを喜ばせることができているのだろうかとか、周りに比べて仕事ができないなど、悩むことは多かったです。 自分がやろうとしていることは社会に問いを投げかけることであり、常識を問い直すという意味ではビジネスのバックグラウンドがないことも1つの強みだと言えるようになるまでには、かなり時間がかかりました。 ──そうした悩みを、どのように乗り越えてこられたのでしょうか。 悩みながらとにかくやり続けて、最後は開き直りです。みんなできるように見えるけど、やっぱりそれぞれ得意不得意があるし、それを補い合うのがチームだと。 今でも自分の役割を見失いそうになることはありますが、それを乗り越えられるようになってきたと思います。 ──現在、特に課題だと感じておられることはありますか。 デジタル名刺サービスの競合が増え、成長していくかを考え抜いた結果、最大の壁は人間の文化ではないかと気づきました。 紙よりもデジタル名刺のほうが便利だとわかってはいても、紙の名刺はみんなが使っているし、失礼がないから安心して出せる。そういうTPOやデジタル名刺に対する精神的な障壁こそが、私たちにとっての本当の競合なのだと。 文化を変えるというのは本当に大変なことなので、スマートフォンや電子ハンコなど、これまでのデジタル化の歴史を参考にしつつ、いろいろな角度から攻め方を研究しています。難しいけれど、とてもワクワクする挑戦です。
熱意の源は、ユーザーの声とチームの絆、そして反骨精神
──坂木さんのチームビルディングについてお聞かせください。 私は会社の中でも元気キャラなんです。 人のために動くのが好きで、集まりやイベントを企画するのが得意。みんなで楽しく過ごす時間に、チームとしての大事な部分が詰まっていると思っています。今日はみんなで作業しようとか、毎月飲み会しようよとか、そういう提案をとにかく言い出しっぺでやるのが私の役目です。 もう1つは、ひとりひとりと密に話をして、信頼関係を築くこと。 ただ、人をマネジメントするとか、数値目標を掲げることは苦手なので、そういった部分はスタートアップ経験があるメンバーに任せて、私はもう少し柔らかいコミュニケーションの部分や雰囲気づくりに注力しています。Slackでは誰よりも早くスタンプを押すくらいの勢いで、「ちゃんと見てるよ」というメッセージを伝えるようにしていますね。 ──仕事への熱意の源泉は何ですか? やっぱりユーザーの喜びですね。 私、めちゃくちゃエゴサーチするんです(笑)。それでユーザーさんが「プレーリーカードでオリジナルデザインつくったよ、見て見て」とか「届いた、使ってみた」という投稿をしてくれるのを見ると、本当にうれしくなります。 自分がつくったもので誰かが喜んでくれている。それがダイレクトに見られるのは、BtoCのサービスのいいところです。 あとは先ほどお話ししたとおり、ビジネスの常識に対する反骨精神や、社会に対して問いを投げかけたい気持ちがあります。 そして何よりも、一緒に働いているメンバーの存在が欠かせません。ほとんどが経営メンバーの友人や紹介で集まった仲間なんですが、「こんなにいいメンバーが集まっていいんですか?」って思うくらい、すばらしい人たちです。 そんな仲間たちと一緒に作り上げていく楽しさが、大きな原動力になっています。
他人と関わり、自分を知ることで成長してきた
──ここからは一問一答形式でお聞きします。いつも何時に仕事をはじめて、何時に終えますか? 9~10時くらいからはじめて、夜は23~24時くらいまで働いています。PCを持ったまま寝てしまうこともありますね(笑)。 でも、暮らしも大事にしたいので、バランスを取りながらやっています。 ──愛用デバイス、仕事道具は? ジャーナリング(書く瞑想)が好きで、手帳に書いたり、歩きながらスマホに向かって音声入力したりしています。 なので、クロッキー帳をオフィスの手に取りやすい位置に置いて、今気になっていることをどんどん書き出すようにしています。 ──情報収集はどのように行なっていますか? わからないことは人に聞くのが一番。 SNSに投稿はしますが、見すぎないように心がけています。情報過多になると疲れてしまうので。 ──能力を伸ばすにはどうしていますか? 基本的にできないことが多いので、できる人に聞く。 あとは、やらないといけない状況をつくることですね。今も、新しいデザインツールの使い方や経営の知識などを学ぶために、自分を追い込んで、無理やり階段を一段上がるような感じでやっています。 ──余暇の過ごし方は? 音楽が好きで、ギターを弾いたり歌を唄ったりします。 あとは外に出ること。美術館はインプットの場になるし、自然も大好きです。 休日はシェアハウスのメンバーとドライブに行ったりして、アクティブに過ごすことが多いですね。家で一人で過ごすよりは、みんなと一緒に何かしているほうが好きです。 ──心が折れたときはどうしていますか? 正直、いつも半分くらい折れてます(笑)。 そんなときは一人で神社仏閣に行って心を落ち着かせ、内省の時間をもちます。とにかく誰かに聞いてほしいときは、友達や家族に話します。 ──尊敬する人は? 特定の人を崇拝するということはないのですが、レオナルド・ダ・ヴィンチは好きですね。絵を描くだけではなく、数学や科学、アートと経営、イノベーターとしての側面など、すべてを持っている人。今の自分の立場から見ると、改めて尊敬できる存在だと感じます。 現代アートの父と呼ばれるマルセル・デュシャンも好きです。大学時代に、社会に問いを投げかけるような彼の作品のことを知って、「これ、私もめちゃくちゃやりたい!」と思いました。 ──健康のために気をつけていることはありますか? ヨガや瞑想をしています。気が向いたときにやるのですが、自分の身体と向き合う大切な時間です。疲れているな、と自分で気づくためにも役立ちます。 あとはフレッシュなものを摂ること。オフィスでリンゴを一個丸かじりしながら仕事をすることもあります(笑)。 ──ビジネスパーソンにおすすめの一冊は? 大学時代に出会った、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』です。日本の文化における影の美しさについて書かれていて、これは人間にも言えることだなと思いました。 光の部分だけではなく、影の部分にも美しさを感じられるようになりたいと思うきっかけになった本です。 ──座右の銘は? 「迷ったときには難しそうな方を選ぶ」 難しそうだからやめよう、という判断はしたくないんです。チャレンジすることで、思わぬ成長や発見があると信じています。 坂木茜音(さかき・あかね) 株式会社スタジオプレーリー共同代表。 京都美術工芸大学・京都建築大学校でWスクールを行ない、伝統工芸・建築を学ぶ。海外バックパック後、個人事業主として美術館運営やコミュニティ形成に携わったのち、株式会社ロフトワークでアート事業を中心にクリエイティブディレクターを務める。シェアハウスの管理人・アーティストという肩書きも持つ。 Source: プレーリーカード
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