11月には積み残しも
紅葉シーズンの京都市で洛北(らくほく)を走る叡山(えいざん)電鉄が積み残しを出すなど大混雑した。増え続ける訪日外国人観光客が殺到したためで、市が進める観光地分散も裏目に出たようだ。 【画像】「えぇぇぇ!」 これが観光客で大行列の「鞍馬駅」です! 画像で見る!(11枚) ドアが開くと待ちかねた訪日客が次々に乗り込み、発車前から座席が埋まる。買い物袋をぶら下げた沿線住民や大学生の姿も見えるが、訪日客に数で圧倒されている。12月上旬の午後、全線が京都市左京区を走る叡山電鉄の出町柳駅。平日にもかかわらず、紅葉見物の訪日客で大にぎわいだ。 鞍馬駅へ向かう2両編成の列車は、宝ケ池駅で比叡山方面から来た訪日客が乗り込み、混雑がますますひどくなる。京都精華大前駅で学生、それぞれの最寄り駅で沿線住民が下車するが、車内に大きな変化はない。市原駅で下車した自営業の男性(65歳)は 「1日中この混雑なら、外出するのも大変や」 と眉をひそめた。 約250mにわたって紅葉のなかを進むもみじのトンネルに差し掛かると、前面展望を撮影しようと訪日客が運転席後方に集まり、一斉にスマートフォンを掲げる。途中の貴船口駅、終点の鞍馬駅では帰りの列車を待つ訪日客がホームを埋め尽くしていた。台湾人カップルは 「中心部が混雑すると聞いて貴船へきたが、ここも混雑がひどい」 とがっかりした様子。
訪日客対応の苦闘
叡山電鉄は、 ・叡山本線(出町柳~八瀬比叡山口間5.6km) ・鞍馬線(宝ケ池~鞍馬間8.8km) を持ち、列車が出町柳駅と八瀬比叡山口駅、鞍馬駅間を運行する。 沿線に鞍馬寺や貴船神社という有名寺社がある参詣路線だが、沿線住民の通勤、通学の足にもなっている。 特に、秋の紅葉シーズンはもみじのトンネルや寺社、旅館街がライトアップされ、観光客に人気だ。 貴船神社周辺の観光案内をする貴船観光会は 「今季の人出は例年より多かった。その分、交通渋滞もひどかった」 と振り返る。 叡山電鉄は無人駅にも職員を配置して対応に当たったが、訪日客がピークを迎えた11月下旬、一部の駅で積み残しが出るなど混乱に陥った。切符を買うのに大行列、ホーム上も車内も大混雑だったという。
市は対策を見送り
市を訪れる観光客は2023年1年間で5028万人に上り、コロナ禍前の2019年の5352万人に匹敵する数まで回復した。特に外国人宿泊客は536万人に達し、2019年の380万人を大きく上回って過去最高を記録している(41%増)。2024年は円安が追い風になり、さらにその数が増えたもようだ。 市内で混雑が目立つのは、 ・東山区の「清水寺や祇園」 ・伏見区の「伏見稲荷大社」 ・右京区と西京区にまたがる「嵐山」 ・中京区と下京区にまたがる繁華街の「四条河原町」 辺りになる。電車や路線バスの混雑はもはや当たり前。1、2便待たないとバスに乗れないことが珍しくなく、市民の暮らしに深刻な影響が出ている。 このため、市は観光客輸送を第一に考えた特急バスの新設、混雑路線の増便、混雑情報の発信などとともに、有名観光地に比べると混雑度が低い他の観光地を奨励してきた。観光客を分散し、有名観光地の混雑を緩和しようとしているわけで、そのなかに洛北も含まれている。 洛北は「京都の奥座敷」と呼ばれ、春は桜、夏は貴船川の上に納涼床を設置して食事をする川床で知られるが、秋の紅葉シーズンは観光客が最も多く、混雑が以前から指摘されていた。だが、市は今季、混雑情報の発信など特段の対応をしなかった。 地元や叡山電鉄から混雑解消を求める要請や相談がなかったからだ。洛北の業者には年間収益の多くを紅葉シーズンで稼ぐところが少なくない点にも配慮した。市観光MICE推進室は 「地元の要請があれば対応に動いたが、今季は関心を持って推移を見守ってきた」 と説明する。
施設面では対応に限界
洛北を訪れている人数は清水寺や祇園、伏見稲荷大社、嵐山など有名観光地に比べると、かなり少ない。京都府企画統計課によると、叡山電鉄各駅の2022年度乗車人員は出町柳駅が約258万人に上るものの、 ・貴船口駅:約35万人(出町柳駅の14%) ・鞍馬駅:約15万人(同5.8%) など残りの駅はJR西日本や私鉄大手の主要駅より1~2桁少ない数字が出ている。 それほど多くない数で大混雑するのは、JR西日本や私鉄大手に8両以上の編成が珍しくないのに対し、 「叡山電鉄が2両編成で運行している」 からだ。紅葉シーズンは目いっぱい増便しているが、鞍馬線の二軒茶屋~鞍馬間が単線で、叡山電鉄の保有車両も20両ほどしかないため、増便に限界がある。しかも、大半の駅はホームが短く、3両以上の増結に対応が難しい。 叡山電鉄は2024年3月期決算で約2.8億円の純利益を出したが、年間乗客数は頭打ち傾向。紅葉シーズン以外は都市近郊路線のなかで閑散とした部類に入り、紅葉シーズンの収益に依存している部分が大きい。わずか1か月ほどのために ・駅ホームの延長 ・複線化 を進める余裕はない。
施設面では対応に限界
貴船口駅で降りた観光客がバスに乗り換えて貴船神社へ向かう府道上黒田貴船線も貴船川に沿って山中を抜ける狭い道路で、普通車の対向やバスの通行がやっと。 土産物店や旅館が沿道に並び、拡幅の余地もない。紅葉シーズンの渋滞は常態化している。叡山電鉄運輸課は 「積み残しを発生させたことは申し訳ないが、少人数の会社でできることに限界がある。紅葉シーズンにこれ以上の人が押し寄せたのでは対応のしようがない」 と苦しい胸の内を打ち明けた。 沿線は最北の鞍馬駅からでも四条河原町など市中心部へ電車を乗り継いで約40分。 交通の便が悪くない上、豊富な観光資源を持つだけに、訪日客をさらに魅了する可能性を秘めている。官民を挙げた対策の検討が迫られそうだ。
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