平安時代に長編小説「源氏物語」を執筆した紫式部の人生を描くNHK大河ドラマ「光る君へ」。内裏の権力闘争と源氏物語の誕生を両輪にストーリーが展開するなかで、注目されたのが、まひろ(後の紫式部、吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)のラブストーリーだ。特別な絆で結ばれた2人は生涯にわたり、お互いを思い続けた。だが、脚本家の大石静さん(73)ら制作チームは、ラブストーリーを描こうとしたわけではなかったという。 【写真】吉高由里子「『あのマダム(脚本の大石静)め』って思いました」 ■相性が良いから 幼いころに出会い、ひかれあったまひろと道長。結婚という形では結ばれなかったが、お互いを求め続けてきた。 若いころの廃邸での逢瀬、お互いに結婚した後の石山寺での再会、疲れ果てた道長の心によりそった宇治でのひとときー。道長とまひろが心を通わせるシーンは、SNSでも話題になった。「ラブストーリーを描こうとしたことは、全く私たちのチームはないです。あの2人が突出してすてきだったんです」 まひろを演じる吉高由里子と道長役の柄本佑は、大石さん脚本のドラマ「知らなくていいコト」(日本テレビ系)でも恋人同士を演じたが、相性の良さを感じている。 「道長とまひろのシーンは、台本でいうと5分の1くらい。ほとんど内裏の政争を描いてるんです。だけど、あの2人があまりにもすてきなので、もうそこだけが皆さんの頭に残っているんです」と語る。「ラブストーリー大河」との反響があることには、「予想外ですね。もちろん2人のラブスストーリーがすてきじゃないとダメだと思いましたけど、 こんなにラブストーリーにくくられるとはちょっと思ってなかったです」。 道長は、普段はおだやかで、嫡妻の倫子や妾の明子には、冷静に付き合うが、まひろにだけは感情的になる。柄本は、視線や声色を使い、まひろだけに心を奪われている様子を表現する。「佑さんは天性の才能があって、いろんな技を披露していただいてる。今作では、衣装を着て歩いてるだけでも色っぽい。多分出そうと思って出してるんじゃなくて天が与えた色気ですね、きっと」 ■源氏物語は密通の話
夫のいるまひろが、道長の子供を身ごもる展開が描かれた。「源氏物語は、そもそも密通の物語という要素がある」と指摘する。若き日の光源氏は義理の母、藤壺と罪を犯す。その後、栄華を極めた源氏だが、正妻に迎えた女三宮に密通されてしまう。源氏の死後を描いた「宇治十帖」では、浮舟と匂宮が密通した。
「密通が大事な要素になっているから、書き手も密通しちゃうのがいいんじゃないかと話し合っていました」。すぐに決定したわけではなく、チームで話し合いを重ね、大河の主人公が不義の子を産む、という展開が決まった。
紫式部を描く上で避けられないと感じていたのが「源氏物語の誕生」だ。
劇中では、一条天皇と、道長の娘・彰子を結びつけるため、道長がまひろに物語の執筆を依頼したという流れだった。
当時、紙は貴重だった。時代考証の倉本一宏さんの考えでは、源氏物語に必要な大量の紙は、紫式部の身分では手に入らないということだった。「道長のバックアップがあり、道長のオーダーでなければあんなに長いものを延々と書き続けることはなかったとおっしゃっていたので、やっぱりオーダーはあったということから発想してああいう物語を作りました」と明かす。
■人生はむなしい
「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば」
注目を集めたのが、歴史上有名な、道長が詠んだ望月の歌だ。道長の傲慢さが込められた歌だととらえる人もいるが、今作では、誠実でおだやかな道長が描かれてきたため、「こよいは良い夜だ」という解釈がされた。
「道長は表面だけを見ると3人の娘を妃にして、絶頂と言えば絶頂。だけど、私たちのドラマでは娘たちは、父に批判的。そういうむなしい気持ちを抱きながら、『今日はいい日だと思いたい』っていう気持ちで描きました」
この「むなしさ」は繰り返し描かれてきたテーマのひとつだ。源氏物語が単なる恋愛物語ではなく、人生の難しさ、むなしさを描いたという解釈は制作チームで共有していた。
「全ての人はむなしい人生を生きていると思う。瞬間瞬間すてきなことはあるし、それに励まされてつらい仕事もやるわけだけど、基本はむなしくないですか。だから(道長のように)ああいう頂点に立った人こそ、思うようにいかないことは大きいだろうし、むなしいんです」と語る。
宴の参加者が道長の歌を唱和する。道長がまひろに視線を送り、まひろも道長を見つめるという場面が描かれた。これは、まひろだけは道長のむなしさを理解しているという演出だった。「紫式部も人の存在のむなしさを書いたと思っています。道長は、『俺の人生も思うようにいかないけど、今日だけはいい夜だと思いたいな』と思ってまひろを見た。2人の心は通じ合ったということです」(油原聡子)
◇
■大石静
おおいし・しずか 東京都出身。多数のテレビドラマ脚本を執筆。主な作品に、連続テレビ小説「ふたりっ子」「オードリー」のほか、「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS系)、「知らなくていいコト」(日本テレビ系)。大河ドラマは「功名が辻」に続き2度目。
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