10月26日に行われたプロ野球のドラフト会議。今年は支配下で69人、育成で54人の合計123人が指名され、各球団で新人選手の入団発表が行われる時期となったが、ここへ来て驚きのニュースが飛び込んできた。ソフトバンクが育成ドラフト1位で指名した古川遼(日本学園・投手)が12月3日に入団を辞退すると発表されたのだ。古川自身が同日、自らのXで決断に至った心境を投稿するなど、大きな話題となっている。【西尾典文/野球ライター】 【写真を見る】自分の言葉で思いを発信した古川投手 “入団拒否”に至った経緯を綴った「長文投稿」 ***
近年では入団辞退はレアケースに
かつては意中の球団でなければ入団しない選手がおり、プロから指名を受けても進学や社会人入りを選択することも珍しくなかったが、近年ではほとんどこのようなケースは見られない。 ドラフト指名を受けながら入団に至らなかったケースは、2016年に日本ハムが6位で指名した山口裕次郎(履正社)以来であり、ソフトバンクに限れば、前身のダイエー時代の1991年に4位指名した三井浩二(足寄、のちに社会人を経て西武に入団)以来、実に33年ぶりの出来事だ。 古川は、東京都江東区出身で、中学時代は江戸川東リトルシニアでプレー。日本学園に進学後、1年夏からベンチ入りを果たし、西東京大会で登板している。 身長190cm、体重80kgの大型右腕だ。 日本学園は、東京都世田谷区にある私立校。学校創立は1885年と古く、政界や財界に多くの著名人を輩出している伝統校だ。野球部の出身者は、“ミスター社会人野球”と呼ばれた西郷泰之(三菱自動車川崎→三菱ふそう川崎→Honda)がいる。過去、甲子園に出場した経験はない。 なぜ、今回、このような事態が起こったのか。他球団のスカウトに聞くと、近年、入団を辞退する選手が少ない理由とあわせて、以下のような話を聞くことができた。
どこかでコミュニケーションの行き違いが
「最近は以前に比べて指名対象となる選手の事前調査をしっかり行うことが増えており、その中で『何位以下であれば入団しない』、または『育成での指名では入団しない』という条件を確認するようになっています。稀にその条件を度外視して強行指名することもありますが、交渉が決裂すれば、その枠は無駄になるわけですから、リスクを冒すケースは少ないですよね。今回の古川くんの場合は、本人は支配下での指名を望んでいたようで、育成であれば大学進学という話を聞いていました。ただ、どこかでコミュニケーションの行き違いがあったようで、入団には至らなかったようです。それでもメディカルチェックや施設の見学には行っているようなので、本人は相当迷っていたのではないでしょうか」(関東地区担当スカウト) 先程触れた、日本ハムの入団を辞退した山口は、支配下の3位以上の指名でなければ、入団しないと事前にプロ側に伝えていたものの、日本ハムは、それを認識しながら指名を強行した。 また、ドラフト会議当日、支配下の指名が終わると、事前に育成ではプロ入りしないとの回答をしていた選手に対して、再度、確認の電話が入り、そこから翻意して、育成での入団を承諾してもらうケースがあるという。 最終的に入団を辞退するまでには、様々な交渉や本人の葛藤があったことは想像に難くないが、近年のドラフトではレアケース。それだけにメディアでも大きく報じられることとなった。
「大学で力をつけてから、というのは良い判断だった」
今回の古川が下した決断について、プロ側はどう見ているのだろうか。前出のスカウトはこのように話してくれた。 「2年生までは、我々(スカウト陣)の間でも話題になっていなかったのですが、秋の東京大会が終わってから、冬にかけて成長しているとの話を耳にして、練習を見に行きました。確かに上背があって、投げ方にも悪い癖がない。『素材としては面白い』と思いましたね。ただ、体つきもまだまだ高校生の中でも細い方ですし、スピードは、ほとんどの球が140キロに届かないくらいでした。日本学園は強豪チームではなく、練習量も多くない。それを考えると、いきなりプロの世界に飛び込むことは、少し難しいと思いましたね。他の球団も多くはそう判断していたようで、最後まで(指名の)対象として考えていたのは、四軍まで持っているソフトバンクだけではないでしょうか。個人的には、大学に行って力をつけてから、もう一度チャレンジすることは良い判断だったと思います」 筆者も、春先に古川の評判を聞き、春の東京都大会のブロック予選で実際にピッチングを視察した。ストレートの最速は137キロ。そのほとんどが130キロ台前半だった。春先の調整段階とはいえ、ドラフト候補として目立つ球速ではない。 もちろん、“光るモノ”はあった。6回を投げて与えた四死球は0で、身長190cmの長身でありながら、コントロールが大きく荒れるシーンはなかった。試合後、本人に話を聞くと、夏に向けてスピードはもちろん、全体的なレベルアップを目指したいとはっきり話す姿にも好感が持てた。
投稿は多くの野球ファンの共感を得た
しかしながら、夏の西東京大会を制した早稲田実を相手に5回戦で敗れたため、上位進出はならず、古川本人は大会を通じて、投球イニングを上回る奪三振を記録するも、スカウト陣の評価を上げるには至らなかった。前述したスカウトのコメントにもあるように、「現段階では指名を見送るのが妥当」という球団が大半を占めていた。 育成ドラフトとはいえ、実際に指名を受けながら、自分の立ち位置を冷静に把握し、高卒でのプロ入りを見送る結論を出した点は、古川の将来にとって、大きなプラスだろう。本人のXへの投稿にもあるように、ソフトバンクの恵まれた環境には当然、惹かれる部分が大きかったと思われるが、元々感じていた悔しさを忘れることなく、入団辞退を決断したことが今後の成長の原動力となるはずだ。自らの言葉でしっかり発信する古川の姿勢も、多くの野球ファンの共感を得ている。 今回の入団辞退で、今後、さらに古川に注目が集まるのは間違いない。大学野球で鍛えて、大きく成長した姿となって再びドラフト戦線に浮上してほしい。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部
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